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文化財あれこれ事情
地震情報配信システムを導入している東寺の話を聞いて思うこと・・・
Vol.13 京都地震時における観光客の安全確保について
東寺では緊急地震速報システムを利用した地震情報配信システムを既に導入していると聞いたので、取材と言うほどではないが、お話を伺って来た。東寺が導入したシステムでは地震の到達時間と震度の予測情報がインターネット回線で専用受信端末親機に配信されてくる。親機と言うので、デスクトップPCくらいの大きさをイメージしていたのだが、A5版の単行本くらいの、ちょっと拍子抜けするくらいコンパクトな受信機器であったのが意外だった。しかし、この機器はかなりの優れもののようで、構内に設置された受信端末子機には、配線を必要とせず、セキュリティー無線で情報が転送される。このとき地震情報は予めセットされた音声メッセージを流すことも出来る。親機も子機も同じサイズであり設置するのに殆ど場所を取らない。
親機から子機へのセキュリティー無線による情報伝達有効範囲は周囲の建築状況により、条件の良い場合には親機から1km以内をカバー出来るが、京都市程度の条件なら700m以内の範囲は先ずカバー出来ると考えて良いとのことである。これは広大な範囲である。京都の寺社など文化財・観光施設は他都市の同様な施設に比較してかなり広大なものも多いが、流石にこの範囲にカバー出来ないほど広大なものは無いと思われる。
従って、東寺をはじめとする殆どの施設では、受信端末親機は1台あればそれ自体の領域をカバーするには十分足りて余りがあり、更に周辺市街地も広くカバーできる。言い換えれば、親機が設置されている寺社などの周辺市街地でも、受信端末子機を置けば、地震情報の配信を受けることが可能と言う事である。
文化財施設周辺の市街地にも物販店や飲食店などの集客施設は多く存在し、これらの集客施設でも地震時の安全確保は重要な課題であるので、子機を設置するだけで地震時の緊急対応の有効性が向上するなら大変有益なことである。
受信端末で受け取る予測地震情報には地震動の到達までの時間が短いものと長いもの、また震度の大きいものと小さいものがある。そのような条件によってどのような音声メッセージを流すのが適切なのかについては未だ深く検討されていない。これからの課題であろう。
寺社などの本来の使命として、人々に様々な災禍からの救いの手を差し伸べ、心の安らぎを与えることが有るであろうから、このようなシステムを提供することはその一環にも繋がることであろうと思われる。それはまた周辺住民にとっても、自らの地域に寺社等が存在することの意義や幸運を再認識し、寺社等を含めた地域の和の大切さを認識する契機になる可能性がある。
京都の寺社などの文化財が今こうして有るのは、それを愛し護りつづけて来た多くの人々がいたからである。これからの長い将来に亘っても維持されて行くためには、先ず地域社会が全体として結束して協働することが不可欠である。そうでなければ文化財に相応しい周辺景観や環境も保てない。しかし、都市では、農村社会と異なり、地域住民の入れ替わりの速度は速い。新規の参入者にとっては、地域にどんなに価値の高い文化財があったとしても、偶々有名な観光地が住居の近くにあったに過ぎず、取りあえず自分とは無縁のものである。文化財と地域とは常に相互利益、今様の言葉で言えばWin-Winの関係、を基盤にしながら維持・更新してゆくことが不可欠なのだと思う。
田中 哮義(たなか・たけよし)
京都大学名誉教授
元・京都大学防災研究所
日本火災学会会長
info@tomorrows-kyoto.jp
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