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Vol.3 ゲリラ豪雨にご用心

更新日:2013年11月5日

2013年夏は日本中で数多くの集中豪雨が発生した。1時間に100mmを超える降雨が複数の地点で観測されることも珍しくなく、山口県や島根県、秋田県や岩手県では人命の損失を伴う災害となった。また、大阪や京都をはじめ、日本の多くの都市において、豪雨による急激な浸水が起こり、都市機能に大きな損失を与えた。こういった急激に発達し、予測が困難な豪雨はいつしか「ゲリラ豪雨」と呼ばれるようになった。気象庁は「局地的大雨」という用語を用いているが、現象の激しさと「ゲリラ」という言葉のイメージが重なるためか、一般にも広く受け入れられているように思う。

東京、大阪といった日本の大都市において、雨水排除の目標とされる降雨は1時間50mm程度であるから、それを上回る降雨が発生すればどこかに排除しきれない水があふれ出すことは当然なのだが、水害に対して経験が乏しい社会では緊急対応もままならず、少なからぬ経済的被害が生じることになる。例えば、2012年8月には宇治市内において豪雨が発生し、死者・行方不明者2名を伴う大きな災害となった。宇治市の担当者によればこれほどの水害は60年ぶりであり、災害後の対応に苦慮したという。災害に対する備えはいまだ十分ではないことが明確になったといえよう。

京都市内に目を向けると、山麓に多くの寺社が存在し、数多くの観光客が常に滞在している。この人たちはゲリラ豪雨がもたらす急激な出水に対して脆弱と言わざるを得ない。気象情報を得にくい状況にあり、周辺の地理にも疎いため、的確な避難行動をとれるとは考えにくい。というよりむしろ、天候の回復を期待しつつ、手近な場所で雨宿りをしようとするのではないだろうか。観光客の避難行動に関して興味深い事例がある。それは2013年8月、長野県諏訪市において開催された諏訪湖祭湖上花火大会である。雨天決行であったためか、最大1時間74.4mmという豪雨にもかかわらず多くの見物客は現地に滞在し、JRをはじめとする交通機関が運転を見合わせたため、結果的に5000人以上が公共施設で一夜を過ごすこととなった。幸い、人的被害はなかったものの、多くの人が体調を崩し、病院に運ばれる人も多数出たということである。花火大会の見物客と寺社の観光客を同じように考えることはできないかもしれないが、目的をもった訪問者が避難行動に移りにくいという事実は見過ごせないと思う。実際、2010年に清水寺周辺でアンケートを行ったところ、「こんなところで洪水なんかあるはずがない」と半ばあきれながら答えられた方が多く、近辺に川の存在が確認できない場所においては、水害に対する危険度の認識はかなり低いことが確認できた。大規模な浸水には至らなくても、山麓部では豪雨によって局所的に短時間の洪水(フラッシュフラッドという)が発生するので、水害に対して全く安全だとはいえず、注意が必要だと思われる。

以上の内容をまとめると、
1.局地的豪雨が頻繁に発生するようになっている
2.被災経験が少ないため、行政も市民も発災後の的確な対応が取りづらい
3.観光客は危険を認知しにくく、すぐには避難できない
となろう。京都においては山麓の寺社のみならず鴨川周辺にも多くの観光客が滞在しているので、ゲリラ豪雨に対して、今以上に検討していく必要がある。山地からの流水には土砂や樹木が混じっていることが多く、排水路の入り口がそれらで塞がれると溢れた水は道路上を流れ出す。宇治市の事例においても道路を伝って氾濫域が拡大したことが確認されている。急な出水による人的被害を防ぐためには、しっかりした住居の2階などへの鉛直避難が有効であるとの意見も近年出てきているが、観光客がこの方法を十分利用できるとは思えない。事前に水害の危険個所を明白にして、強い降雨時には比較的安全な場所へ人々を誘導するような方策が望まれる。

里深 好文(さとふか・よしふみ)
立命館大学理工学部教授
立命館大学防災フロンティア研究センター副センター長
 
<主な研究活動>
河川災害および土砂災害の防止・軽減に関する研究
流砂系土砂管理に関する研究
文化遺産の水防災に関する研究 など

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