緊急地震速報システムを利用した地震情報配信システムについて、東寺に導入されている受信機を例にとれば、専用セキュリティー無線によって半径700mの範囲にある子機に情報を転送できる。これは東寺の構内を十分に覆った上、更に周辺市街地の広大な領域をカバーできる広さである。従って、この領域に地震情報の配信を希望する施設は、もし東寺と話し合いがつけば、親機を設置する必要が無く、子機のみの設置で東寺経由の地震情報を受け取ることが可能になる。
これを京都市全体で考えてみよう。周知のように、京都市には世界遺産の寺院・仏閣・城を初め多くの文化財施設がある。もし東寺と同様な地震情報配信システムが、これらの文化財施設に設置されれば、それぞれの構内はもとより、京都市街地の大半が地震情報の受信可能範囲にカバーされるであろう。
また、もし文化財施設の偏在により受信可能範囲に含まれない地区が残ったとしても、市民の安全に責任を持つ行政、消防、警察などの施設、多くの人命安全確保が課題となる学校、大学、大規模病院、商業施設、業務施設など、更には地震時の操業安全対策が重要な大規模工業施設でも地震情報配信システムが導入されれば、京都市の市街部全域が完全に受信可能範囲にカバーされる。従って、地震情報の配信は受けたいが親機を導入するほどではない小規模の施設は、これらの施設の親機からの情報を子機で受けるようにすれば良い。
仮に地震情報の親機を、図の例のように、市街に偏りなく配置することが出来れば、市街地全域を受信可能範囲に収めるための地震情報配信システムの親機は130台程度あれば足りると思われる。実際には上記のような文化財施設や行政、大規模施設などは市内均等には分布していないので、親機の台数はもう少し多く必要だが、多分200台もあれば十分ではないだろうか?導入に必要な費用について正確なところは把握していないが、聞くところによれば意外と安く50万円程度のようである。ならば200台導入しても1億円であるが、導入可能な施設は200より遥かに多いであろう。これによって地震時の人命危険が大幅に低減し、観光客にも安心感を与えることで無用な混乱が回避できるなら、極めてコスト効率の良い投資と考えられる。
オリンピックの2020年招致の会議以来‘お・も・て・な・し’が流行語となったが、京都を訪れる観光客にとって、犯罪や災害からの安全が保証されていることの安心感は、心のこもった‘おもてなし’に優るとも劣らない満足をもたらす要素であろうと思う。犯罪に関しては、日本は幸いにして世界で最も安心な国の1つであるが、地震災害に関しては残念ながら不安を払拭し得てはいない。京都の伝統的環境は現代の高度技術の導入によって持続可能となるのだと思う。
(京都市街地と地震情報端末親機の配置)
田中 哮義(たなか・たけよし)
京都大学名誉教授
元・京都大学防災研究所
日本火災学会会長
info@tomorrows-kyoto.jp