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文化財あれこれ事情
“「美しい風景」という言葉があるが、「美しい」とはなんだろうか?「風景」とはなんだろうか?そこで「美しい風景」とはなんだろうかと考えてみた。 ”
Vol.1 文化遺産と風景1 ―勝地と名勝―
「美しい風景」という言葉がある。私も使う。しかし、「美しい」とは何か?「風景」とは何か?を考えはじめると、この言葉は収まりが悪くなってしまうようで落ち付かない。一方、京都には「ええとこ」という話し言葉があって良く使われている。これを書き言葉に直すと「勝地(しょうち)」である。勝地とは、すぐれた所(広漢和辞典)、けしきのよい土地(広辞苑)という意味であって、戦前までの文献には良く出てくる言葉である。京都の昭和初期の景観保全と森林施業を研究した文献には、京都の人は名勝地ではなく勝地と表現することを選んだことが記されている。ここでは他人の評判を気にすることはないので名勝という言葉は使わないのであり、自分たちの感覚に自信を持って自分たちが昔から「ええとこ」と思ってきたところが勝地なのだという京都人のプライドが垣間見えて京都らしい。これを心理学で用いられているジョハリの4つの窓(自分と他人、知っているかいないか、で区分した4つ)で考えてみると、右図のようにA2が特に大きくなって表現されるのであろうか。
どういうところが勝地であるのかについては、計量して判別できるものではない。判断基準をマニュアル化できるものでもない。史蹟名勝天然紀念物保存法(現在の文化財保護法の元になる最初の法)制定後に名勝の基準がなかなか定められなかったことも同様である。強いて言えば、多くの人々がええとこと感じ、より美しくなるよう手を加え、それが長い歴史の間継続してきたということであろう。言い換えると風景の価値に対する文化性と歴史性になる。民族の共通感覚の形成ということもできる。
江戸時代には京都案内の図書が各種発行されている。有名なところでは都名所図会(みやこめいしょずえ)、雍州府志(ようしゅうふし)などがあり、これらで評価され、今日でも評価されるものは勝地なのである。京都の中の古い時代の勝地が近代的開発の中で破壊・消滅したものもあるが、残っているものも多い。これは京都が世界文化遺産「古都京都の文化遺産」に登録されている遠因である。奈良時代に太政官布告で和歌の浦に守人を置いて保全に力を注いだことが文化財保護の嚆矢といわれているが、観光開発のために見る影もなくなっている。鞆の浦では道路・橋梁の開発計画があったが、判決によって保全が図られた。保全と開発の調整・両立はいつの時代でも大きな問題である。
福島 信夫(ふくしま・のぶお)
工学博士、技術士(建設部門)、一級土木施工管理技士、測量士
立命館大学大学院理工学研究科客員研究員(歴史都市防災研究所アドバイザー)ほか
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