副会長
村井 康彦
(国際日本文化研究センター名誉教授)

文化財保護に関係する会議に出席した時のことです。用意された資料のなかに「寺領観音堂」という見馴れない名の寺がありました。丹後半島中央部の山間にある寺で、平安時代の仏像も伝えているとのことですが、この珍しい名前の由来は、無住となったため寺領の住民(10数戸)の方々が寺の維持、管理に当って来たことによるものでした。それにしても寺領観音堂という呼称には、地元住人の寺を維持して行こうとする強い意思が込められているようで感銘を受けました。こうした住人の努力がなければ文化財を維持できなくなることは火を見るよりも明らかです。ここでは「災害以前の災害」、「災害なき災害」にさらされているのです。
 
全国でいちばん寺社が多いのが京都ですが、一部を除いて、寺社の多くは維持するのに困難な状況にあります。とくに地域の住民と結びつきの強い寺社ほど、過疎化などのためにその深刻さは絶大です。わが国の文化財行政がこうした過疎地への目配りをしなかったわけではありませんが、文化財を維持する土台・環境が急速に崩れつつあるのが実状でしょう。それには今日の日本人の間で「絆」—人と人とのつながりが急速に失われて来ていることも無関係ではありません。3.11はそうした日本人にあるべき共同体について鋭く問いかけたでき事ではなかったでしょうか。
 
「明日の京都 文化遺産プラットフォーム」は、災害から文化遺産を守ることを大きな使命としていますが、このような「災害なき災害」にも心配りをしながら進めることが大切だと思っています。

PROFILE
むらい・やすひこ
山口県出身。53年京都大学文学部史学科卒、58年博士課程修了、64年「律令国家解体過程の研究」で文学博士。58年京都女子大学助教授、66年教授、87年に設立された国際日本文化センター教授となり、95年退官、名誉教授。同年、滋賀県立大学教授、00年退任、名誉教授。01年京都造形芸術大学教授、04年退職。97年京都市歴史資料館長、04年京都市美術館長となり、11年退職。

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